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2005.10.27

メゾン・ド・ヒミコ

新宿武蔵野館。犬童一心監督。オダギリジョー,柴咲コウ主演。

塗装会社の事務として働く沙織(柴咲コウ)の元に,ある日春彦(オダジョー)という美しい青年が訪ねてくる。彼は幼い頃に沙織と母を捨てて家を出た父・輝雄(田中泯)の恋人のゲイだった。家を出た輝雄はゲイバーの卑弥呼の二代目として成功を収めていたが,今は海辺のホテルを買い取り,ゲイのための老人ホーム,『メゾン・ド・ヒミコ』の館長を務めているらしい。春彦は沙織に卑弥呼が末期癌で余命幾ばくもないことを告げ,ホームを手伝うように誘う。沙織はゲイで母と自分を捨てた父を嫌い,その存在さえも否定していたが,ある理由で借金を抱えていたため,春彦が提示した破格の条件で,ホームの手伝いをする決心をする。初めて間近に生活するゲイの老人達。彼らの思いやりある優しい心と明るい暮らしぶりを目の当たりにして,沙織の彼らと父・卑弥呼を見る目は少しずつ変化していく…。

この作品は,観る人によって好き嫌いがはっきり分かれる作品だと思う。まず最初に,ゲイというマイノリティの存在自体を受け入れられるか。これが受け入れられないと,その時点でこの作品は口当たりの悪い作品と評価されかねない。しかし,そのハードルを越えてしまえば,ライトなタッチだが,奥深いヒューマンドラマとして楽しむことができる。そのために主役に据えられたのが,オダジョーなのである。だから一見すると,オダジョーはゲイに見えない,美青年。それは,製作側が観客を『メゾン・ド・ヒミコ』の住人に感情移入しやすくするために施した心遣いだ。反対に,沙織役の柴咲コウが(性格)ブスで男っぽい性格に描かれているのも面白い設定。

脇役のホームの住人のゲイ達も,それぞれ個性的に描かれていて,キャラも立っている。そして,みんな心が『ピュア』で,彼らがゲイであるという差別的認識を越えて,その人間性の優しさに癒される思いさえ感じる。そんな彼らと全く対照的に描かれながらも,強烈な印象に心打たれるのは,卑弥呼役の田中泯の佇まいの美しさだ。『隠し剣 鬼の爪』で魅せた(僕は『たそがれ清兵衛』は残念ながら観ていない)殺気際立つ迫力とは正反対の『静』の中に迫力がある。その雰囲気から放たれるオーラは,伝説のゲイ,卑弥呼の存在感を一層際立ったものにしている。沙織からゲイであることと過去のことを罵倒されながらも,その全てを飲み込んだ上で呟く,『でも,あなたが好きよ』という台詞と演技は秀逸。これをもって,物語は,父娘,性別,生死,セックスのその全ての垣根を越えた『人間愛』を享受することになる。作品冒頭の差別的視線とは全く違って,完全にこのおおらかな『人間愛』に感動している自分に驚く。『人間らしく生きていくことに性別は関係ない』,『その壁は誰でも乗り越えられる』楽しいものであることを突然展開されるダンスシーンで上手く表現している。やや唐突的ではあるが,これは作り手側の遊び心だろう。

そして,ラストシーンが与えてくれる心優しさ,人情味の温かさも秀逸。これぞハッピーエンドって感じ。沙織が性別を越えた人間愛に目覚めたことへの安堵感に観ている側は包まれる。沙織とホームの住人達との明るく楽しい未来を想像せずにはいられない。どんな鈍感な観客でも,このシーンを観れば,『ゲイなんてたいした問題じゃないかも』と自分の差別的視線を問い直してしまうはずだ。

だから,この映画は,最初に書いたように,ゲイの物語である,という設定を受け入れられるかどうかで感想は大きく分かれると思う。テーマもプロットも良く練られていて,各役者の演技も良く,卑弥呼の部屋(美術)とか衣装のこだわり様とか,細かいところにも心遣いが効いていて安心して観ることができる。ただ,もちょっと田中泯と沙織の絡みがあってもよかったかな。それと,沙織の心理変化の過程・切り替わりがもっと明確に描けていた方が,ラストシーンでより一層感動できたのかもしれない。

と,ここまで書いて,実は僕は鑑賞開始からなかなか前述の『差別的視線』が抜けず,あの爽快なラストシーンまで観終わって,初めて『そういうことを言いたかったのか』と気付かされ,実はなかなか味のある作品であったことに驚きを感じたクチなのだが。プロットが万人向けではないので,傑作とは言わないが,そのテイストが口に合うなら,なかなかの佳作である。とにかく田中泯を観て,って感じ。あとブサイクな役を違和感なく演じている新境地を開く柴咲コウも見所のひとつではある。『どうしてもゲイってダメ』っていう人は観てはいけません。そういうふうに,観客を選ぶ作品だ。映画の日に行ったので,映画館は満員だったが,感想は真っ二つに別れたことだろう。

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Comments

TBありがとうございます。わたしもTBらせてもらいますね。
サンフレの試合のあった日とか、時間があったら遊びにきますね♪

Posted by: manako | 2005.11.01 at 10:20 PM

manakoさん,コメントありがとうございます。
この作品は観る人を選びます。なので,鑑賞後に,なんやこの作品は,と怒る人もいると思います。そこで,田中泯なのです。この意外性満点の確信犯的キャスティングにはうならされます。柴咲コウがブサイクに描かれているのもいいです。
Jリーグバトン,TBさせてもらいます。
これからもよろしくお願いします。

Posted by: たつし | 2005.11.01 at 08:38 PM

そうですかー。
ゲイが大丈夫かどうかわからないので、
見て、試してみたくなりました。
「Jリーグバトン」をフイに渡されて、次に渡して、安心して逆をたどってきました~。
サンフレカラーが、心地いいですね♪
ここは、メアド入れないと、コメント送信できないんですね。難しい...

Posted by: manako | 2005.10.31 at 10:24 PM

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犬童一心監督『メゾン・ド・ヒミコ』を観た。 「お洒落なお盆」を味わうことのできる映画だった。 映像と描き方がお洒落な映画だったと思う。 ホモ(=ゲイ&レズ)というのは、非常にファッショナブルな次元にあるものだ。 ホモは、"fashion"の問題だ。 つまり一種の流儀に過ぎない。 そして、確実に上流だ。 女が男とセックスし、男が女とセックスした方が、機能的に楽で都合が良い。 しかし、考えてみれば、女だって産まれてすぐに他の女の乳首を吸いたがるのだ。 そういう意味では、人類が求める... [Read More]

Tracked on 2005.11.07 at 09:19 PM

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