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2005.11.10

蝉しぐれ

品川プリンスシネマ。黒土三男監督。市川染五郎主演。(すいません,『せみ』の字がでませんでした)

下級武士である父を尊敬する少年・文四郎(市川染五郎)は,剣術に励むかたわら,隣家の幼馴染ふくと二人の友人達と仲睦ましく暮らしていた。しかし,父が藩内の権力抗争に巻き込まれ,切腹を言い渡される。父の遺体を大八車に積んで家に戻ろうとする文四郎だが,途中の坂道を一人では越えられなくなってしまう。そこに現れたのは,ふくだった。二人は泣きながら,大八車を引いて坂を越えていくのだった。そんなふくが江戸屋敷の奥に勤めることになり,二人に別れの時が来る。お互いの想いを伝えられないまま,離れ離れとなった二人。月日は過ぎて,青年になった文四郎は,ふくが殿の側室となり,故郷に戻り出産したという話を聞く。やがて二人は運命の再会をすることになるのだが…。

藤沢周平原作の映画化である。山田洋次監督に先行して映画化された同じ藤沢周平作品とどうしても比べてしまう(と言っても,僕は『隠し剣鬼の爪』しか観てないが)。同じ山形の小藩という設定なのに,黒土監督版では,演者は方言を使わない。その分,観やすいのは確かだが,山田監督版を先に知ると何か違和感を感じる。だが,それは,作品の本筋には全く影響を与えていない。市川染五郎も木村佳乃も方言を使わない方が役にマッチしていると思う。特に最後の絡み(ここが一番の見所)で,二人が台詞の上でお互いの気持ちを確認しあう場面においては,この台詞の一言一言が胸に突き刺さってくるので,素直に感動できるためにも,方言でなかった方が良かったと思う。

とても丁寧に撮られた作品だと思う。日本の四季の美しさを丁寧に表現している。人物の描き方も奥行きがある。しかし,敵役の家老のキャラが立ってなくて勧善懲悪感が今ひとつだったのが惜しいところ。また,見せ場のひとつである,文四郎の欅御殿での攻防では,人一人切り倒す度に,刀を取り替えるという設定の細やかさ(真剣で人を切ると刃こぼれと血のりで,もうその刀は使い物にならなくなる,というのが本当の姿)が迫力と緊迫感を増徴している。しかし,剣の達人のはずの文四郎にしては,市川染五郎の殺陣は今ひとつ達人には見えなかったが,命を懸けているという恐怖感は出ていたと思う。

この作品は,前述の少年時代の坂道のシーンと,ラストの最後に二人が絡むシーンが全てだな。とにかくお互いの台詞がいい。『忘れようと,忘れ果てようとしても,忘れられるものではございません』…視線は合わさずとも,何とも言えない思い入れ深い表情の市川染五郎の演技とそれを受け止める美しい佇まいの木村佳乃がこの映画に合格点を与えてもいいと思えた。奇をてらった演出もなく,正統派で作りこまれた格調高い時代劇の佳作である。もう少しプロットに重みがあれば,もっと感動も増しただろうが,2時間の枠ではこれがいっぱいのところだろうと思う。市川染五郎と木村佳乃に違和感を感じる人もいるだろう。そういう人にとっては,平均点以上の作品にはならないとも感じる。僕はこういうしっとりとした出来栄えを静かに味わう邦画もたまにはあってもよいと思うのだが,いかがか。

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