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2009.08.29

ディア・ドクター

シネツイン新天地。西川美和監督。笑福亭鶴瓶主演。

過疎の村で献身的に働く村でただ一人の医者は実は偽物だった…。

予告編から既に知らされていたこの真実の後に,西川監督がどういう仕掛けやメッセージをこめているのかが注目の作品となった。

作品としては,時間軸を交錯させた作りで,次第にそれぞれの登場人物の素性を明かしていくという凝ったもの。それぞれの演者がよく,医者を『偽物』と知っていた者もいれば,『神様』と頼りにしていたものもいる。ただ,『神様』と頼っていた人々の変わり身の早さに人間の狡さを感じざるを得ない。

彼はなぜ嘘をついたのか。そして,なぜ嘘をつくことを止め,失踪したのか。次第に明かされていく真相。その巧妙な作り込みに感嘆せざるをえない。無駄なカット等,一切ない。考え尽されたカット割りに綿密な演出。美しい田園風景等。本当に素晴らしい。

西川監督の前作『ゆれる』がとても気に入っていて,期待大のこの作品だったが,『ゆれる』ほどの驚きはないものの,じんわりと心にしみる鑑賞感を与えてくれる。傑作とは言わないまでも相当な佳作である。

鶴瓶の演技も予想以上に良い。特に胃がんであることを老女に隠して,その娘の医師にも嘘をつき通したにも関わらず,その娘が1年も故郷に帰ってこない(おそらく余命は1年なかったのだろう)と知った瞬間の何とも言えない複雑な表情。自分の嘘がつききれないと観念したあの表情が忘れられない。

あと,老女の娘で医師役の井川遥も凛とした存在感があって良かった。正直,彼女がここまでの演技を魅せるとは驚きだった。最後の彼女の台詞,『あの先生はどんな風に母を見届けたんだろう。もし捕まえたら聞いておいてください』という台詞は,さりげないが,この作品のテーゼに横串を刺すように重い。

ラストシーンが意外でユーモラスがある。偽医者の表情はわざと映さず,老女の表情だけで魅せる。そこには『嘘』が決して100%の『悪』ではない割り切れないものだという作者のメッセージが込められているような気がする。

とにかくここまで綿密に作り込める監督は珍しく,西川監督は邦画界にとってはとても貴重な存在だと思う。本人は小説作家としての仕事が好みのようだが,是非監督業にも精を出してほしい。西川監督の次回作も期待大だ。

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